コラム
機械式駐車場問題を考える

第43回:機械式駐車場平面化の隠れた費用とリスク|平面化で後悔しない為の手引

はじめに

失われた30年間と機械式駐車場業界の動向

失われた30年の間、日本では生活雑貨から日用品、サービス産業、建築業、公共事業に至るまでのあらゆる業界で、過度な価格競争が繰り広げられました。この競争は各業態のビジネスモデルを変革させ、以下のような手法が主流となりました。
 
1.「製品本体を低価格で販売し、取り替え用の消耗品で利益を上げる」
2.「製品を低価格で納品し、メンテナンスや部品交換工事で利益を追求する」
3.「自社規格で設計した製品を低価格で納品し、他の業者がメンテナンス業務を請け負いにくくする」
 
製品本体の販売よりも、維持管理の段階での利益追求、すなわち「顧客の囲い込み」を狙ったビジネスモデルが多く見られるようになりました。

機械式駐車場平面化の隠れた費用

機械式駐車場平面化に掛かる維持管理費用

多くの方が機械式駐車場の問題に直面し、「機械式駐車場を撤去・平面化することで問題が解決する」と考えられるかもしれませんが、必ずしもそうとは言えません。
 
鋼製平面化工法を採用した場合、平面化工事の後でもメンテナンス、メッキが剥げた床板の補修、さらには床板の張り替え工事など、機械式駐車場時代と同様の継続的なメンテナンスが必要とされることがあります。
ほとんどの平面化メーカーが独自の規格を採用しているため、床材(鋼材)の交換が必要になった場合、そのメーカー経由でのみ材料の購入が可能となることがあります。これら独自規格の床材は、特注品としての高コストが発生することが考えられます。さらに、もしメーカーが床材の製造や販売を終了してしまった場合、交換の際に必要な床材が入手困難となり、大きな問題が生じる可能性があります。
本コラムでは、鋼製平面化工法に関する機械式駐車場の平面化費用、維持管理、そして危機管理についての全体的な視点で、これらの課題やその対処法について詳しく解説します。
 
鋼製平面化を採用する際は、事前にその内容をしっかりと理解し、適切に検討する必要があります。冒頭で触れたように、鋼製平面化によっては「メンテナンスや部品(鋼製床の床材)の交換が必須」となる場合があります。平面化の際の費用は、必要なメンテナンスや床材交換を事前に把握し、メンテナンスの頻度やコストをきちんと算出することで、将来の修繕計画に影響を与えることがあります。
鋼製平面化は、使用されなくなった機械式駐車場を解体・撤去し、空になったピットが弱くなるのを防ぐために、鋼製床でピット全体を補強するものです。そして、鋼製の床部分は平置き駐車場として利用可能です。機械式駐車場を平面化することで、メンテナンスや維持管理のコスト削減が期待されるかもしれませんが、注意が必要です。というのも、鋼製平面化にはメンテナンスが必要なものと、必要ないものの2つのタイプが存在します。独自規格の床材を使用しているメンテナンスが必要なタイプは、交換の際にはメーカーから直接材料を購入する必要がある点を注意してください。機械式駐車場の平面化に関連する総費用を計算する際、平面化の初期投資だけでなく、継続的なメンテナンスのコストも考慮し、長期的な視点での判断が求められます。

鋼製平面化に潜むリスク

機械式駐車場の鋼製床板がメーカー規格で平面化された場合、2つのリスクが潜んでいます。
1つ目は、床材が平面化メーカーからしか購入できないため、資材の価格が割高になることです。
2つ目は、床材がそのメーカーでのみ製造されているため、メーカーが製造・販売を中止した際に、床材の入手が困難になる可能性が極めて高まることです。

「特注鋼材」と「一般鋼材」

特注床材(鋼材)が抱えるリスクについての解説に入る前に、「特注鋼材」と「一般鋼材」の違いについて説明します。
「特注床材」とは、多くの平面化メーカーが特定の自社規格で採用している床材を指します。この床材は、製作したメーカーからしか購入することができないため、他の一般的な床材に比べて高価であるとされています。
一方「一般鋼材」とは、鋼材カタログ(重量表)などに記載され、規定の規格に標準化されて販売されている鋼材を指します。一般鋼材は標準の規格で販売されているため、ホームセンターや鋼材を専門に扱うECサイトから購入可能です。ここで注意していただきたいのは、ホームセンターやECサイトで求める鋼材を購入する際、希望する規格の鋼材がなく「取り寄せ」あるいは「特注で製造、販売している」と販売業者から伝えられることがあります。しかしそれは、「通常の販売ラインアップに含まれていなく、注文を受けた際に特別に製造・販売する」という意味であり、平面化メーカー自社規格の特注床材とは全く異なる意味を持っています。そのため、「特注」という言葉のニュアンスの違いを理解してください。

平面化メーカーの特注床材が割高となるリスク

床材が過荷重によって変形し、交換が必要になる場合、多くの平面化メーカーは特定の自社規格の床材を採用しています。これは、製作した特定のメーカーからしか購入できないため、一般的に高価です。さらに、EV(電気車)の普及に伴い車重が増加する可能性があり、鋼製床の設計荷重を超える車両が駐車すると、床材が損傷するリスクも高まります。
機械式駐車場業界には「2度儲ける」という慣習が存在します。この「2度儲ける」につきましては、第34回コラムをご参照下さい。多くの管理組合、商業施設運営者、ビルオーナーは、高額なメンテナンス・維持管理費用の削減を目指し、平面化を選択するでしょう。しかし、平面化ビジネスにも、この「2度儲ける」慣習が影響していることを理解することが重要です


関連記事:
第34回:何か変?機械式駐車場メンテナンス費用のカラクリ


メーカー専売の部材購入とそのリスク

床材が高価である点は一旦置いて、今後の資材供給の安定性が問題となり得ます。私たちも、自社製の機械式駐車場のメンテナンスを行っていた際、リミットスイッチの交換の必要が生じ、該当部品を発注しました。しかしながら、コロナの影響で製造元である中国の工場が稼働を停止し、労働者を確保することが難しい状況となり、リミットスイッチの入手が不可能となった経験があります。ここから学べる教訓は、「部品や資材の供給先が一箇所だけであることの高いリスク性」です。
鋼製平面化に関しても同様の問題が考えられます。平面化メーカーが床材の製造や販売を中止すると、必要となる床材の入手は大変困難となります。さらに、保証期間が過ぎていれば、メーカーに対して責任を問うこともできません。
このような事態になった場合、主に影響を受けるのはエンドユーザー、つまりマンションの管理組合や商業施設の運営者、ビルのオーナーといった方々です。床板(鋼材)の交換を考慮する際、納品を行ったメーカーにのみ頼るのは、非常にリスクが高いと言えます。

機械式駐車場平面化の危機管理

資材の安定的な供給先の確保

鋼製平面化工事後、最も注意しなければならない危機管理は「資材(床材)の安定的な供給」にあります。この対策として、「資材の安定的な供給網の確保」が重要です。このため、鋼製床で使用されている床材は、自社規格の特注品ではなく、鋼材業者やホームセンター、あるいは鋼材を専門に扱うECサイトで流通している標準化(JIS規格に基づき、鋼材カタログに紹介されている一般鋼材)された床材を使用することが必要です。また、お客様自身で資材を入手できる体制も整えておくべきです。

鋼製床の床材の標準化と供給網の拡大

床材の安定供給を実現するため、鋼製平面化で使用される床材は市場に流通している規格のものを使用することが望ましいです。鋼製床の設計段階で、独自の規格よりも市場で流通する標準化された床材に合わせて設計することが重要です。

標準化されている床材の入手方法

市場に流通している床材(鋼材)は、一般の方でも容易に入手できます。最も身近な入手先は、鋼材を取り扱っているホームセンターです。一般の方にとって、ホームセンターでの購入がもっとも簡単です。鋼材を購入する際は、鋼製床の仕様を明示して注文することができます。

溶接や穴あけ加工の必要がない床材の使用

標準化された床材を使用することで、安定供給の確保が可能です。しかし、もう一つ重要な要素として、床材に溶接や穴あけ加工が不要であることが挙げられます。これにより、鉄鋼加工業者を必要とせず、床材の交換が容易に行えます。

まとめ

機械式駐車場平面化にかかる全体の費用を判断する際には、「平面化工事の費用のみか」、それとも「平面化後もメンテナンスが必要か」という2点を必ず確認する必要があります。メンテナンスが必要な場合は、その内容、価格、頻度をきちんと把握することが推奨されます。さらに、鋼製平面化に関する危機管理対策も業者に確認し、技術的な根拠に基づく策を提案してもらうと良いでしょう。

メンテナンスが必要ない鋼製平面化|マルチステージ

SDGs 目標12「つくる責任、つかう責任」の追求

13回、第42回コラムでもご紹介しましたが、ノムラの鋼製平面化「マルチステージ」は、メンテナンスが不要な鋼製床です。溶融亜鉛メッキは小さな傷は「犠牲防食作用」により自己修復が可能です。(出典:日本鉱業協会 鉛亜鉛需要開発センター)
ノムラのマルチステージは標準化された床材を使用し、穴あけ加工や溶接が不要なため、資材の入手は恒久的です。弊社に依頼しなくても床材の取替えができる点も特徴です。マルチステージは「持続可能な消費と生産のパターンを確保」することを目指し、SDGs目標12「つくる責任、つかう責任」を追求しています。


関連記事:
第13回:機械式駐車場撤去・平面化後のメンテナンスの必要性
第42回:機械式駐車場平面化の注意点|鋼製床のメンテナンスの矛盾
 
出典:
溶融亜鉛めっき皮膜破損部の補修方法(案) – 日本鉱業協会 鉛亜鉛開発需要センター
国連広報センター|「2030アジェンダ-持続可能な開発目標(SDGs)


機械式駐車場平面化ビジネスの問題

残念ながら、機械式駐車場平面化ビジネスには、平面化後もメンテナンスや鋼製床の張替えを要求し、「2度儲ける」慣習がまだ残存しています。本来、使われなくなった機械式駐車場の数を減らすため、そして高い維持管理費用を削減する目的での平面化であったはずが、「平面化後もメンテナンス費用が掛かる」というのは意味がないのではないでしょうか。機械式駐車場平面化を検討する際は、平面化工事費だけでなく、その後のメンテナンス費や対策もきちんと把握することが重要です。このステップを省略すると、予期しない出費に頭を抱えることや、機械式駐車場での経験と同じトラブルを再び経験するリスクがあります。
さらに、メンテナンスや部品の交換が必要となることは、鉄という資源の消費を意味します。現代の世界情勢や経済状況を考慮すると、供給網が突如遮断される可能性も考えられます。資材供給を恒久的に維持するためには、標準化、汎用化、そしてシンプルかつ効率的な手法が重要であると感じています。
 
 
 
一級建築士・機械式駐車場開発者
野村 恭三